ピロリ菌について
「ピロリ菌」とは、ヘリコバクター・ピロリと呼ばれる細菌の通称です。らせん状の細菌で、胃の粘膜に生息しています。日本では、主に家族内感染によって幼小児期に感染が成立します。公衆衛生が向上したことで、近年はピロリ菌の感染者数が減少しつつあります。
一般社団法人日本ヘリコバクター・ピロリ学会から提供されているガイドラインによれば、ピロリ菌が関与している疾患として、胃食道逆流症、胃過形成性ポリープ、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、鉄欠乏性貧血、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、胃MALTリンパ腫、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎、機能性ディスペプシア(ピロリ関連ディスペプシア)などが挙げられます。これらの疾患に対しては、ピロリ菌の除去が強く推奨されています。
ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜に炎症が生じて次第に粘膜が萎縮し、慢性胃炎に至ります。除菌治療をしないまま放置していると、胃がんの発症リスクが高くなります。胃がん予防のためにも、ピロリ菌感染がわかったらすぐに除菌治療を行いましょう。
除菌治療
胃薬1種類と抗生物質2種類とを併用して1週間服用すると、ピロリ菌を除去することができます。除菌の効果については、除菌から2ヶ月経過後に尿素呼気試験によって判定します。お薬による除菌の成功率は、90%前後です。仮に除菌に失敗した場合、別の抗生剤を使用して除菌治療を繰り返します。2回目には、除菌の成功率が95%前後まで上昇します。ピロリ菌を除去しても胃がんのリスクが皆無になるわけではないため、年に1回は胃カメラ検査を受けることが重要です。
ピロリ菌感染検査
ピロリ菌感染検査は、胃カメラ検査と一緒に胃の粘膜の一部を採取する検査と、組織を採取しない検査に大別されます。除菌治療に保険を適用するには、胃カメラ検査でピロリ菌感染の確定診断が不可欠です。
当院では、検査を受ける本人の状況に合わせて、1種類または2種類のピロリ菌検査を使用します。
胃カメラ検査時に行う感染検査
胃カメラ検査の際に胃の粘膜の一部を採取し、ピロリ菌の有無を確認します。
※複数の抗血栓薬を服用している人では、組織の採取後に出血がおさまらなくなる場合があるため、この方法は使用できません。
※また、胃薬を服用している場合も、検査の精度に悪影響が及ぶため、この方法は使用できません。
迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌は、尿素を分解するウレアーゼという酵素を産生します。この性質を利用して、胃粘膜から採取した組織を専用の試薬に加え、試薬の色の変化に基づいてピロリ菌の有無を判断します。
鏡検法
胃から採取した粘液を特殊な薬剤で染色し、顕微鏡によってピロリ菌の有無を調べます。
胃カメラ検査以外で行う検査
尿素呼気試験(UBT)
最も高精度だとされているピロリ菌感染検査です。方法としては、検査の際に専用のお薬を飲んで頂いた後、呼気からピロリ菌の有無を調べます。
抗体測定法
血液を採取して、ピロリ菌に感染すると体内で作られる抗体の有無を確認します。
便中抗原測定法
便にピロリ菌が含まれているか否かを確認します。
ピロリ菌感染検査の健康保険適用
①慢性胃炎であることが医師によって診断され、②ピロリ菌の感染が胃カメラ検査で確認された場合、保険診療の範囲で除菌治療を受けることができます。胃カメラ検査をしないまま、ピロリ菌の有無を調べたり、除菌治療を受けたりする選択肢はありません。
半年以内に人間ドックなどで胃カメラ検査を受けた方へ
半年以内に人間ドックで胃カメラによる検査を受け、慢性胃炎と診断されている場合、当院でのピロリ菌感染検査には保険が適用されます。また、検査でピロリ菌への感染が判明した場合、その後の除菌治療についても保険が適用されます。
除菌治療の流れ
1:お薬の服用
1種類の胃薬と2種類の抗生剤とを、朝食後と夕食後の1日2回、1週間服用します。抗生剤の作用によって腸内細菌叢に影響が及び、下痢気味になる場合があるため、整腸剤も必要です。
人によっては、お薬による副作用として、胸焼け、味覚異常、下痢、蕁麻疹などが生じる場合があります。アレルギーなどの重篤な副作用は稀にしか起こりません。副作用が生じた場合も、ほとんどは一過性です。お薬を服用している期間中、上記以外で体調に何らかの有害事象が生じた場合、すぐに当院にご相談ください。
起こり得る副作用
味覚異常(約30%)
下痢(約13%)
蕁麻疹(約5%)
肝機能障害(約3%)
アナフィラキシー(重篤なアレルギー。重篤な薬疹や息苦しさなど):極めて稀
2:除菌判定
当院では、除菌治療が終了した2ヶ月後に、尿素呼気試験によって除菌の効果を判定します。尿素呼気試験の当日は、食事を摂らずにお越しください。
3:(1回目で除菌に失敗した場合)2回目の除菌治療
約90%の方では、1回の除菌治療だけでピロリ菌が除去されます。1回では除菌が成功しなかった場合でも、約95%の方は2回目の治療で除菌に成功します。2回目の検査で使用するお薬は、1回目とは異なる抗生物質です。
4:2回目の除菌判定
1回目と同じように、除菌治療が終了した2ヶ月後に尿素呼気試験で除菌効果を調べます。2回目でもピロリ菌が残ってしまった場合、3回目以降は、ご希望があれば対応しています。ただし、検査は自費負担です。